研究内容

複数のタンパク質分子あるいはドメインから構成される生体分子システムの設計・作動原理を化学的に理解することを目指した研究を行っています。具体的には生体分子システムとして機能する種々のタンパク質の触媒反応、輸送反応、動的構造変化に着目し、その分子機構を解析するための手法・装置開発と実際の反応への応用を行っています。

タンパク質の構造・機能ダイナミクスの時間分解測定

ABCトランスポーターなど、細胞膜間輸送に関わる膜タンパク質のダイナミクスを時間分解分光法によって明らかにします。
ABCトランスポーターは複数のドメインから構成される膜貫通型タンパク質であり、輸送基質の通り道であるチャネルを有する膜貫通ドメイン(TMD)とATPの結合・加水分解反応を担う細胞内ヌクレオチド結合ドメイン(NBD)から構成されています。NBDで起こる大きなエネルギー変化を伴う反応・構造変化がTMDへと伝播し、TMDの構造変化が誘起されることによって輸送が起こることが提案されていますが、その化学的な相関は未解明のままです。そこで、NBD-TMD間の反応・構造情報のやり取りがどのタイミングで起こるかを時間分解測定によって明らかにします。

タンパク質の構造揺らぎ・構造形成過程の時間分解測定

リボソームで遺伝情報に基づいて生合成されるポリペプチド鎖は、無数に存在するコンフォメーションの中からアミノ酸配列特異的な天然状態構造を選択し、機能を発現することが一般的である。このフォールディング研究は50年以上も続いていますが、我々はその分子機構の完全な理解には至ってはいません。さらに、このようなタンパク質は室温程度の温度において、周囲の水分子などによる熱ゆらぎに曝されており、天然状態の高次構造は動的に揺らいでおり、このような構造ゆらぎが機能を発揮する上で重要であると考えられていますが、機能に直結する構造揺らぎを実験的に観察するには至っていません。我々は構造形成あるいは構造揺らぎと機能の相関を理解する研究を目指します。

マイクロ流体デバイスを利用した時間分解測定法の開発と応用

上記のような時間分解測定を行う際には、市販の装置では測定が実現できない状況も出てきます。我々はマイクロ流体デバイスを既存の装置に組み込む、あるいはマイクロ流体デバイスに対応させた測定法を独自に組み立てることで、汎用性の高い時間分解測定装置を開発します。実験室だけでなく、SPring-8あるいはSACLAといった大型量子ビーム実験施設も活用しながら、化学状態変化・分子構造変化を実時間観察することのできる独自の装置を活用します。
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